カナダ・ケベック州、人里離れた深い森。湖のほとりにたたずむ小屋で、年老いた3人の男性が愛犬たちと一緒に静かな暮らしを営んでいた。それぞれの理由で社会に背を向け、世捨て人となった彼らの前に、思いがけない来訪者が現れる。その80歳の女性ジェルトルードは、少女時代に不当な措置によって精神科療養所に入れられ、60年以上も外界と隔絶した生活を強いられていたのだった。世捨て人たちに受け入れられたジェルトルードは、マリー・デネージュという新たな名前で新たな人生を踏み出し、澄みきった空気を吸い込みながら、日に日に活力を取り戻していく。しかし、その穏やかで温かな森の日常を揺るがす緊急事態が巻き起こり、彼らは重大な決断を迫られていくのだった……。
新しい出逢いと湖畔での穏やかな共同生活。80代の男女を主人公に迎え、人生の晩年をいかに生きるかというテーマを詩情豊かに綴る、愛と再生の物語が誕生した。
ジェルトルード/マリー・デネージュを演じるのは、金髪とクラシックな美貌を持つがゆえに、“ケベックのカトリーヌ・ドヌーヴ”とも呼ばれたアンドレ・ラシャペル。カナダの映画、演劇、テレビ界で約70年のキャリアを築いたこの名女優は、惜しくも2019年11月に他界し、本作が遺作となった。世捨て人のひとりチャーリー役に扮するジルベール・スィコットは本作でカナダ・アカデミー賞主演男優賞にノミネートされ、親友トム役のレミー・ジラールは同・助演男優賞を受賞。劇中で弾き語りを味わい深く披露するジラールは、ドゥニ・アルカン監督作品『みなさん、さようなら』(03)の主演俳優としても名高い。監督は、本作が3本目の長編劇映画となったケベック出身のルイーズ・アルシャンボー。本作の舞台でもあるケベック州アビティビ在住の作家、ジョスリーヌ・ソシエがフランコフォニー五大陸賞を受賞した原作小説に感銘を受け、登場人物の息づかいや自然の鼓動までも伝わってくる繊細な世界観を見事に作りあげている。